「関連性評定に基づく質的分析」
第二型式研究:対象者一人から得られた複数事例の統合
および
第四形式研究:複数の対象者から得られた複数事例の統合
葛西 俊治
(元・札幌学院大学心理学部臨床心理学科教授)
関連性評定に基づく質的分析の基本的内容と実際についてはすでに理解していることを前提として、ここでは、複数の「逐語録」(同一の対象者のものとはか
ぎらりません)を、一つずつ
「関連性評定質的分析」を行った後で、そのようにして得られた複数の布置を統合するための方法を解説していきます。
◎葛西・紀要論文(2007)において第二形式と並んで第四形式を導入して明示したことに伴い、記述の統一をはかる目的で必要な修正を施しました。なお、「複数資料から得られた、複数のカード布置を統合する」という趣旨と基本的手順は同一です。(6/12,2008)
「第二型式」研究形態とは、「対象者一人から得られた複数の言語的資料に基づいて、それぞれにカード化された内容について、一人の評定者が関連性評定を行うことによる質的研究方
法」です。
なお、2008年の紀要「関連性評定質的分析による逐語録研究― その基本的な考え方と分析の実際」では、研究形態をさらに整理して次のように位置づけることにしました。すなわち―
- 第二形式 「一人の研究者が、ある一人を対象として、<複数の言語的資料>に基づいて行う」
- 第四形式 「一人の研究者が、<複数者から得られた複数の言語的資料>に基づいて行う」
GTAやIPAにおいて「トライアンギュレーション triangulation
(三角測量)」と呼ばれているような「多角的視点」を実現する際には、複数の資料や複数の評定者(研究者)によるアプローチが必要とされています。また、
「理論的飽和」という概念では、テーマに関連する重要な要因がことごとく含まれていることを一つの要請としていますが、いずれにしても、研究対象となる資
料が複数であることを要請しているわけです。関連性評定質的分析では、そうした研究上の要請を「第二型式」「第四形式」と呼び分けて、それぞれにおける基
本的な分析手順を提示しています。
ここでは第二型式・第四形式における「複数の資料におけるカード布置の統合」を解説することを目的とします。なお、第二形式・第四形式における資料の位置づけは異なりますが、「複数のカード布置を統合する手順」そのものは同一なので、以下では第四形式での場合、すなわち、異なる複数の者から得た資料を分析する場合を例として取りあげています。
●「要約モデル」生成に向かう際の基本的な方法は次の通りです。
なお対象者Aについてはすでに例示された内容を再掲し、対象者Bについては新たに行った分析内容を示しています。
- 逐語録のカード化を行う。
- カード相互の意味的関連性に基づいて空間配置をする。
対
象者による8枚のカードの空間配置の例
- 空間配置に基づいて、ラベルカードと独立カードの「ラベルリスト」を作る。
対象者のラベルリスト
- 対象者AとBのおよびラベルリストから。
第二次「関連性評定」に先だって、まず、対象者毎に数量化理論による分析と形式概念解析を行っておきます。
対
象者に
ついて 「数量化理論V類」 による分析 (再掲)
- KJ法では空間配置図に矢印などを付加して解説を加えていきますが、「関連性評定」によって得られた空間配置図およびラベル
リストは、「関連性評定」という判断過程によってカード間およびラベル間の「関連性」が評定されてきたので、以下に示すように「林の数量化理論V類」の入
力データとして扱うことができます。
- SPSSデータエディタは、Excelと類似の行列表現となっています。1から8の行は「カード」番号を表し、上段にある
「L11」「L21」…「L31」はラベルを表しています。それぞれのカードが該当するラベルのところには{1}、該当しないところには{0}がデータと
して入ってい
ます。これを数量化理論V類の入力データとして分析します。
「空間配置」と「ラベルリスト」と、下に示した「カードとラベルの対応表」は互いに同一の内容で、表記の仕方が異なるだけです。
空間配置図あるいはラベルリストから得られた「カードとラベルの対応表」の例
(対象者Aについて、以下の内容は再掲)
- 数量化理論V類の計算過程では、固有値を計算します。ここでは、第5軸までで全分散の100%が説明され、第2軸まででは全
分散の82%
が説明されることが分かります。(固有値は相関係数の二乗と等しい数値になります。)
固有値
相関係数 全分散に対する累積比
1
0.57416
0.75773 0.57416
2
0.24607
0.49605 0.82023
3
0.09694
0.31135 0.91716
4
0.05164
0.22724 0.96880
5
0.03120
0.17663 1.00000
|
- 続いて、ラベルL11,L21…L31に対する次元上の数値が「カテゴリースコア」として算出され、以下のようになります。
ここで { L11の値が
1 } というのは、そのラベルに該当するものを意味し、{ L11の値が0 }
というのは、それに該当しないカテゴリーを指し示しています。そして、L11というラベルは、第1軸と第2軸の二次元平面上では、{
-1.65730, 1,69091 } という位置にあることが分かります。
●カテゴリースコア
1
2
3 4 (軸)
変数
値 カウント
L11
0. 6
0.55243 -0.56364 0.45723 -1.06
1. 2
-1.65730 1.69091 -1.37170 3.19
L21
0. 5
0.86609 -0.70913 0.19411 0.83
1. 3
-1.44349 1.18189 -0.32353 -1.38
C4 (L32)
0. 7
0.07385 0.70634 0.39422 -0.18
1. 1
-0.51693 -4.94439 -2.75957 1.26
L12
0. 6
-0.57269 -0.32461 1.00786 0.41
1. 2
1.71808 0.97383 -3.02359 -1.23
L22
0. 5
-0.89786 -0.40841 0.42788 -0.32
1. 3
1.49643 0.68068 -0.71314 0.53
L31
0. 4
-1.21185 -0.34968 -0.93254 -0.72
1. 4
1.21184 0.34968 0.93257 0.72
有効ケース数
- 8
欠損ケース数
- 0
|
- 林の数量化理論V類とは、「質的な因子分析」と呼ばれることがあります。それは、心理学では頻繁に用いられる因子分析のよう
に、いくつかの「軸」ないし「次元」と、その次元上の位置を算出するからです。上図の上段にある「L11」「L21」…「L31」といったラベルに対し
て、それぞの次元上の座標値が得られているので、以下に簡単に図示してみます。
第2軸まででは全分散の82%が説明されることが上で示されています。さて、第1軸は左側空間(マイナス領域)は「L11難しい」「L21難しくてつい
ていけない」ということなので「難しい・否定的…」なニュアンスがあります。一方、右側空間(プラス領域)は「L12どうなんだろう」「L22期待もある
のだが」「L31習いたい反面…」と「期待と不安…」のニュアンスがあります。これをまとめて、例えば、第1軸を「難解さと関心」の軸などと呼べるかもし
れません。
縦軸である第2軸は、上側空間(プラス領域)に「L11」「L21」「L12」…があるのに対して、下側空間(マイナス領域)には「C4使えるといい
な」があるので、「不安と期待」の軸などと呼べるかもしれません。なお、ここに示した例はカード数があまりにも少ないので、あくまでも手順を示すための解
説に過ぎません。
いずれにしても、軸の解釈は因子分析と同様に研究者によって解釈され命名されます。こうした次元表示を得ることによって、カードの空間配置の理解と解釈
の参考になる数量的把握が得られることに意味があります。
-
次に対象者Bの関連性評定に基づくラベルリストを「数量化理論V
類」の入力として分析をしてみます。ここでは、SPSSのデータとして入力した場合の例を示します。左側の行に10カードが並び、それぞれがM11から
M22までのラベルに含まれている場合は{ 1 }を入れ、含まれていない場合は { 0 }を入れてあります。
- これをSPSSの「数量化理論V類」によって分析すると、以下の計算結果が表示されます。第1軸で55.5%、第2軸で
24.5%の分散が説明されているので、第1軸・第2軸の二つの次元で合計80.%が説明されていることが分かります。
固有値
相関係数 全分散に対する累積比
1
0.55543
0.74527 0.55543
2
0.24526
0.49524 0.80069
3
0.10361
0.32189 0.90431
4
0.04342
0.20836 0.94772
5
0.03310
0.18194 0.98082
6
0.01918
0.13848 1.00 |
- 数量化理論V類を用いて分析を行うと、次のような「カテゴリースコア」も同時に出力されます。ここでは各ラベルが位置する4軸ま
での次元上の位置が表示されていま
す。なお、M11というラベルの値が{ 1 }
いうとき、M11に該当するカードが2(カウント)あったという意味で、その第1軸・第2軸の座標値は { 0.83993, -3.47394 }
ということが分かります。
カテゴリースコア
1
2
3 4 軸
変数 値 カウント
M11 0.
8 -0.20998 0.86849
-0.56434 0.40
1. 2
0.83993 -3.47394 2.25733 -1.62
M12 0. 8
0.49395 -0.21930 -0.86902 -0.48
1. 2
-1.97579 0.87720 3.47603 1.92
M21 0. 7
0.75602 -0.28470 -0.63393
0.30
1. 3
-1.76405 0.66431 1.47914 -0.71
M31 0. 6
0.99743 -0.27978
0.16508 0.79
1. 4
-1.49614 0.41967 -0.24764 -1.19
M41 0.
5 1.20712 -0.19141
1.16989 0.17
1. 5
-1.20712 0.19141 -1.16990 -0.17
M13 0.
8 -0.40655 -0.65923 -0.26141
0.92
1. 2
1.62620 2.63691 1.04561 -3.69
M22
0. 7
-0.62225 -0.85583 -0.19069 -0.58
1. 3
1.45192 1.99695 0.44509 1.37
有効ケース数
- 10
欠損ケース数
- 0
|
- 次元上の数値のうち、第1軸と第2軸について図示すると下のようになっています。横軸は第1軸、縦軸が第2軸です。ラベルカード
の三つのグループが、右上、右下、左側にまとまっていることを見てとることができます。横軸の第1軸は、右端にM13「代表値には統計だが…」、M22
「質的量的方法に悩む」が位置し、左側のマイナス領域の端には、M12「発表は文字だけで要約みたい」、M21「要約みたいで説得力がない」…というラベ
ルがきています。したがって、第1軸とは、質的方法について統計学との関係で「思い悩む」プラス領域と、「説得性がない」というマイナス領域からなる軸と
して解釈する
ことが可能かもしれません。
次に、縦軸を見ると、最も上のプラス領域にあるのはM13「代表値には統計だが…」やM22「質的量的方法に悩む…」があり、最も下のマイ
ナス領域にあるのはM11「名前だけ先行?!」となっています。このため、プラス側は「少数例だと統計は使えないが…」という理解を示す軸であるのに対し
て、マイナス側は「質的方法は名前先行?!」という理解が対比されているので、第2軸とはたとえば「専門的知識を前提としているか否か」という軸として解
釈することができるかもしれません。
なお、第三次元と第四次元はいずれも説明率が低いので、特に取り上げる必要はなさそうなので、図示は省略します。
*数量化理論V類による本文中
の図についての補足を
必ずお読み下さい。
対象者Aによるラベルリストを例として説明しています。
↓
- 空間配置・ラベルリストの「形式概念解析」による図示と把握
- 「形式概念解析 Formal Concept
Analysis」とは概念間の論理的構造を把握する一つのアプローチであり、そのための解析プログラムが長田博泰氏(札幌学院大学社会情報学部社会情報
学科教授)によって開発されています。「形式概念にもとづく質的分析」(2004)や「社会情報解析への一寄与:形式概念によるデータ解析」(2006)
などの論文において、質的解析法としての実例が提示されています。
- 「関連性評定」に基づいて得てきたラベルリストの構造が、形式概念解析プログラムが対象とする入力形式と同一の構造なので、
そのまま分析して以下に示すような図を表示させることができます。この表示は長田先生のプログラムによるものです。
(なお、形式概念解析には、「単一事例や少数者に対する質問紙」の質的分析といったよう
な、より本質的な使用方法がありますがここでは触れません。)
形式概念解析への入力データの形式 (行がカード、列がラベル)
上記データについて、その論理関係を解析した表が出力される
- 現時点では、出力された「Hasse図」(論理的構造を示す図)に、必要な情報などを後から追加しています。例が極めて単純
な
のでこのように得られた図表の価値は分かりづらいかも知れませんが、こうした解析結果を参考にして逐語録の「解釈モデル」へと進んでいくことになります。
なお、空間配置・ラベルリストでは可視的ではない「該当するカード枚数 (全体に対する%)」を追加表示してあるので、逐語録の中でそうしたラベルに関
するカード、すなわち、そうした語りがどの程度現れたのかを見てとることができます。ここでは、カードの50%(4枚)が「L31習いたい反
面…」というカテゴリーに属すことが分かります。
空間配置・ラベルリスト内容のHasse図の例
- 同じくBについても「形式概念解析」で分析してみます。入力データはcsvファイルで以下のような形になっています。つまり、そ
れぞれのカードについてそれらが該当するラベルのところに
x がついています。これを長田の「形式概念解析」ソフトで分析すると、カードとラベルの論理的な包含関係に関する表が出力され、そうした内容を示した
Hasse図が出力されます。
(新規作成)
-
空間配置・ラベルリストの構造に、それぞれのラベルに含まれるカー
ドとそのパーセントを追記してあります。Hasse図とは、対象となっているラベルの包含関係あるいは順序関係を図示するものです。カードとラベルの布
置、およびラベルリストに盛り込まれている構造に、各ラベルに属するカード数によって、長田が定義する意味での「支持度%」を読み取ることによって、三系
列の樹状図(デンドログラム)のどの枝分かれに属するカードが多いかなどの布置の状況を容易に見ることができます。
- 複数の対象者・対象資料のカード布置におけるラベルリストから、ラベルカードを取り出す
- 布置Aと布置Bとでは、LEVELの進展状況が異なっています。布置AではLEVEL3までなのに対して、布置Bでは
LEVEL4までとなっています。こ
こでは、両者からそれぞれに取り出されるカード枚数がほぼ同数であることを判断基準として、それぞれ、ラベルカード(独立カードを含む)が四枚となってい
るLEVELからラベルカード・独立カードを取り出すことにします。
なお、どのLEVELまで注目するかは、研究テーマと各対象者からの布置の状況
(LEVEL数、カード枚数、記述内容など)に基づいて、研究者が判断を下す必要があります。
たとえば、「最も高いLEVELに注目して取り出す」ならば、取り出されるラベルカードは最も少ないものであり、その反対に「最も低いLEVELに注目して取り出す」ならば、元のカードが最初にグループとなったところに焦点を当てるのため、カード枚数は最大となります。(カードそのものまで戻るのならば、複数者に対して個別に関連性評定を行った意味はなくなり、最初から複数者の全カードを一括して関連性評定を行ったことになります。)
ここでは、たとえば、要約が進んでいて同時にラベルカードの枚数が多くないことから、高いLEVELに注目してみます。そして、対象者Aと対象者Bについて、ラベルカードをほぼ
同じ枚数取り出すという方針をたてています。(第二型式の進め方の解説なので、あまり枚数が多くない範囲でそれぞれ四枚程度としました。)
以下、赤い線
で示したのが取り出すラベルカードです。
再掲
再掲
- 布置AのLEVEL2までに注目すると { L21 C4 L22 C8
}というように、二つのラベルカードと二つの独立カードを取り出すことができます。
布置BのLEVEL3までに注目すると { M11 M31 C7 M32 }
というように、三つのラベルカードと一つの独立カードを取り出すことができます。すなわち、次の「第二次関連性評定」は、以下のカードを対象として行うこ
とになります。合流カードの識別のために対象者AおよびBの独立カード名を書き換えて、対象者A { L21 LC4
L22 LC8}、対象者B {
M11 M31 MC7 M32} としておきます。
*なお、それぞれの最終ラベルから合流カード群を作成する場合は、Aからは{ L21,4,L31 }の三つのカテゴリー(独立カードを含む)を取り出し、Bからは { M11, M41, M22 } の三つのカテゴリーを取り出します。これによって、8枚の「ラペル」「カード」を対象として次の「第二次関連性評定」に進むことになります。このように最終ラベルを用いて合流カード群を構成する方が一般的ですが、この例では取り出される枚数がやや少ないことから、説明の都合上、それぞれ四枚ずつ取り出す場合を示しています。(6/18,2008追記)
- 8枚の合流カードについて関連性評定と分析
8枚のカードを対象にして、まずは関連性評定を行い、次の布置のようになったとします。
- 対象者AとBから、それぞれ四枚ずつラベルカードを取り出し、「8枚の合流カード」を対象にして関連性評定を行って得た空間配置
図・布置です。N11からN31まで、Nと書かれているのが合流カードにおけるラベルカードです。全体としては二つの領域があり、一つは「N21期待もあ
るが名前だけで習うほどではないのか?」という内容で、もう一つは「N31難しくて時間も関わる割には文字だけでは説得力もない?!」という内容です。期
待もあるけれども、実際に利用するまではいろいろと難しい事柄がつきまとっているようだ…という感じが伝わってきます。
- 次に「合流カード8枚」の上記の布置について、数量化理論V類による分析を行ってみます。上の布置をExcelなどで表示すると
下のようになります。
→ [ 共通ラベルと独自カードの例 ]
- Excel形式で表示している上のラベルリストから、8枚の合流カードについて、六個のラベルへの所属を{1}としてSPSS
データとして入力すると次のようになります。
- 数量化理論V類によって分析すると、次のように「固有値の計算結果」が表示されます。第一次元で分散の80%が説明され、第二次
元で分散の22.2%が説明されるので、第二次元目までで86.3%の分散が説明されることが分かります。
●相関係数
固有値 相関係数
全分散に対する累積比
1
0.64049
0.80031 0.64049
2
0.22222
0.47140 0.86271
3
0.10449
0.32326 0.96721
4
0.03279
0.18109 1.00000
5
0.00000
0.00017 1.00000
|
- 次に、N11からN31という六個のラベルに該当するかしないか、という「カテゴリー」(合計12個)に対して、四次元までの座
標値が出力されます。「変数」として表示されているN11〜N31の「カテゴリー」が、四つの次元上でどのような位置にあるのかが見てとれます。
1
2
3 4 軸
変数
値 カウント
N11
0. 6
0.40059 -1.05258 0.27430 0.11
1. 2
-1.20177 3.01641 -0.82291 -0.35
N13
0. 6
0.40059 0.94450 0.27430 0.11
1. 2
-1.20177 -2.97484 -0.82291 -0.35
N21
0. 4
1.20177 -0.09145 0.82291 0.35
1. 4
-1.20177 0.02078 -0.82291 -0.35
N12
0. 6
-0.54541 0.02702 1.10137 -0.69
1. 2
1.63623 -0.22239 -3.30411 2.09
N22
0. 5
-0.86820 0.03949 0.57713 1.58
1. 3
1.44700 -0.16004 -0.96188 -2.64
N31
0. 4
-1.20177 0.02078 -0.82291 -0.35
1. 4
1.20177 0.33254 0.82291 0.35
|
- ここでは、第二次元までで分散の86.3%が説明されているので、横軸に第一次元をとり、縦軸に第二次元をとって二次元平面上に
六個のラベルの位置を表示してみます。(簡略的な空間配置図は標準で出力されます)
横軸である第一次元は、布置の左右の分割に対応していて、左側のマイナス領域は「期待と懐疑」に関わり、右側のプラス領域は「技術的難しさと効果」という
対比になっています。したがって、第一軸はたとえば、質的方法に対しての「期待と懐疑の気持ちvs実質的疑問」といった内容を表す軸と考えられます。
縦軸である第二次元は、上側のプラス領域には「N11期待もあるし使ってみたいのだが」があり、下側のマイナス領域には「N13名前だけ先行なら習う
べきかどうか分からない」が来ています。したがって、「期待vs逡巡(迷い)」といった内容を表す軸と考えられます。
上は、横軸に第三次元をとり、縦軸に第二次元をとった図です。第三次元では約10%程度しか分散を説明していませんが、参考までに図示してみました。する
と、第三次元の右側のプラス領域には「N31難しくて時間もかかわる割には文字だけでは説得力もない?」がきていて、左側のマイナス領域には「N12少数
例?方法の使い分け?難しくて悩む。」がきています。N31はN12の上位にあるラベルなので、N31という上位ラベルと、その下にあるN12が第三次元
では左右に分かれて対比的な位置を占めていることになります。
*解説を簡単にするために、数量化理論によって算出される「カテゴリースコア」のうち、実際に存在するラベルについてのみ図示しています。しかし、上に示
した計算方法では「そのラベルに該当しないもの」というカテゴリーについても座標値を算出します。たとえば、「N31」の座標値と同時に、その反対のカテ
ゴリーであ
る「N31ではないカテゴリー」の座標値も算出しています。この件については、以下をお読み下さい。
↓
- 合流カードの布置を形式概念解析によって分析する。
- 対象者Aのラベルリストから抜き出した4枚のラベルカードと、対象者Bのラベルリストから抜き出した4枚のラベルカードの合計8
枚について、関連性評定を行いました。その内容を形式概念解析の入力データとするために、次のような csvファイルを作成します。ここでは、{
N11 N13 N21 N12 N22 N31 } という六個のラベルに対して、左側の行に示されている8個の対象 { L22 LC4 M11
LC8 M31 L21 M22 MC7 }で該当する部分には「x」が記入されています。
- これをデータとして形式概念解析プログラムで分析すると、以下のようにデータ内容の出力と、概念間の関連を解析した
表、そしてHasse図が出力されます。
N11からN31まで、合流カード
における六個のラベルについて、
それらの相互連関を分析した表
六個
のラベルについてのHasse図
- 形式概念解析を関連性評定に基づく布置に対して適用すると、上図のようなHasse図が描かれます(一部はマニュアルで作成)。
すでに解説したように、形式概念解析には、より本質的な使い方がありますが、ここでは、関連性評定に基づく布置に、該当する対象数の情報を付け加えること
で、見やすい形に可視化しています。対象全体がそれぞれ50%である二つのグループに分かれ(N31,N21)ていく様子が見てとれます。
*
「形式概念解析」番外:
データ行列の転置
形式概念解析プログラムは、行と列との間に対応関係のあるデータであればどのようなものでも処理します。したがって、上で示したデータ行列を転置して、
つまり、行と列とを入れ替えて、分析することも可能です。上に示したHasse図は、いわば関連性評定による布置をほぼそのまま再現しているだけですが、
でデータ行列を転置したcsvファイルをデータとして分析してみると次のようになります。
◆
行と列を入れ替えた対応表
◆
行と列を入れ替えたデータに関する形式概念の構造
◆ 行と列とを入れ替えた対応表についてのHasse図
ここでは、ラベルカードL21とM22は、三つのラベルN12,N22,N31に属するものであり、N…という六個あるラベルのうちの50%に属すとい
うことが見てとれます。また、その下にある「MC7 (33%)
{N22,N31}」のノード(結び目・結節点)は、MC7というラベルカードが、N22,N31というラベル(ラベル全体の33%)に属していることを
示しています。なお、右下に黄色で示されている「(17%){N21}」というグループからは、それに直接属すラベルカードは存在せず、しかし、それぞれ
二枚のラベルカードを含んでいる二つのグループを指し示すことが見てとれます。
このように転置した対応表についての形式概念解析は、対象ラベルカードとラベル(N…)との関係をひっくり返して図示するため、状況によっては新たな発
見のきっかけを造り出してくれることもあります。状況によっては、こうした使い方が可能であることを示しておきます。
第二型式・第四形式質的研究― 複数事例の統合についてのまとめ
ここでは、複数の言語的資料から得られた複数のカード群があるときに、まず初めに、それらを個別に関連性評定分析を行い、次に、得られた複数のラベルリ
ストに基づいて、それぞれのラベルリストからラベルカードを選抜します。複数の研究対象から選び出されたラベルカードを合体させて形成される「合流ラベル
カード」を対象にして、あらためて関連性評定に基づく質的分析を行います(第二次関連性評定)。そして、「合流ラベルカード」から得られた、新たなラベル
リストを対象にして、数量化理論V類による分析と形式概念解析を実行します。
こうした手順によって、複数の資料に盛り込まれている多様な事柄や要因を広く把握することが可能となるわけです。このように、複数事例の統合を行う研究
形態を「第二型式(一人の対象から得られた複数の資料に基づく)」「第四形式(複数の対象者から得られた複数の資料に基づく)」研究と呼んでいます。
★多数事例あるいは少数事例における「第二・第四形式」研究
第二・第四型式は、同一テーマについての聞きとりを、同一人に時期を変えたりなどして複数回行う場合(第二形式)や、同一テーマについての聞きとりを異なる複数者に行う(第四形式)ことにより「複数個の逐語録(言語資料)」が存在している事態での研究型式です。
統計的研究では複数個のデータに基づいて「平均値・分散」といった「代表値」を算出することができますが、質的アプローチでは複数個の言語資料に基づいて「代表的な要因とその構造」を導き出すことが目的となります。
さて、平均値や分散にしても、標本の数(データ数)が少なければそうした数値自体の安定性・信憑性は低いので、ある程度以上のデータ数を用意することによって、そうした標本の平均値や分散がある程度安定していることを実現させることになります。その結果、そうした標本値から推定される母集団の平均値や分散もそれなりの妥当性をもって推定することができるわけです。
そうした観点を類比的にとらえて、第二・第四型式研究について詳しく眺めると、「複数の言語的資料」というものが実際に2-3個とか5-6個なのか、あるいは10個程度もあるのか、あるいは数十から100個ほどもあるのかによって、研究の焦点と方向性に相違が現れてきます。特にかなり多数の資料がある場合は、特定の記述や要因や特性などがどの程度の回数や割合で現れたかなど、数量的な情報を分析に利用できる可能性が出てくるためです。
- 多数事例による第四形式研究 : 質的分析と数量的分析の統合
多数事例研究とは、さしあたり十数個以上から100個を超えるような言語資料に基づくものとします。
たとえば、100個も超えるような言語資料を研究対象とする場合、その多くは聞きとりそのものの時間は極めて短いか、あるいは記された回答内容が数行から高々10行にも満たないなど、記述量およびそこに記された内容ともども、かなり限定されていることがほとんどといえます。そうした場合は、それぞれの言語資料一つ一つに対してカード化・カード布置という作業を行う必要はなく、複数者による全ての記述内容とそこから得られる全てのカードを一度に扱うという方法が可能です。(表面的には「一つの資料」に基づく第一形式研究のように見えます。)
その場合、「注目する事柄や記述が何回出現したか」という出現頻度を数え上げたり、回答者の何パーセントがそうした記述を行っているかを示したりすることにはそれなりの意味があるわけです。さらに、それと同時に、回答者の個人特性、たとえば、性別・年齢などの基本的情報とともに、例えば、性格検査による項目や医学的生理学的測定値などなど、研究テーマに関連する数値データ(外的基準変数)を同時に得ていれば、「質的重回帰分析である数量化理論T類、あるいは質的判別分析である数量化理論U類、を用いた質的研究」という、質と数量とを同時に扱う統合的研究を実施することができます。KH法の大きな特徴の一つである、言語的記述と数値データとの結びつけによる統合的研究となるわけです。(こうした手法の具体的手順はあらためて提示いたします。)
*糖尿病患者の対処スキルに関する研究では、質問に対してある特定の記述を行った人々が生理的指標(BMI,HbA1c,non-HDL)上にどのような数値をとっているのかという分析が行われています。(大鳥富美代「2型糖尿病患者における自己管理行動と問題解決スキルの関連性について」大阪府立大学大学院看護学研究科修士論文、2007)
これは「多数事例による第四型式」の研究形態です。a)100名を超える回答者を得ていること、b)生理的医学的な外的変数を得ていること、という研究設計の特徴から、全ての回答者の記述をカード化しその全てのカードを用いて第一形式のようにカード布置を行ったものです。そして、数量化理論T類(質的重回帰分析)を用いることによって、ある特定の記述を行ったグループの回答者群がどのような生理的数値をとっているか…という質的アプローチと数量的アプローチの統合的研究が実現されました。
- 小数事例による第二・第四型式研究
小数事例研究とは、さしあたり2-3個から10個以内程度の言語資料に基づくものとします。
研究上の現実的制約から考えるならば、「比較的長時間の聞きとり」による逐語録を研究資料とする場合は、二桁になるような事例数をそろえること自体が困難な場合が多いといえます。一人1-2時間から数時間にもわたるの聞きとり、聞きとった内容を逐語録として文書化する作業、資料のカード化、カード布置…という一連の作業を行うのに相当の時間を費やす必要があるため、大規模なプロジェクトとして研究を進める場合を除けば、ほとんどの第二型式研究は「小数事例による質的研究」という位置づけとならざるを得ません。その場合、「第二型式研究とは基本的に少数事例による研究」と考えることができます。また、同一テーマで異なる対象者の方にも聞きとりをする場合も、聞きとりが数時間にわたるような研究であれば、「少数事例による第四形式研究」となります。
小数事例であるため、特定の記述が何人の回答者に見られたのか…といった数値的な把握にはそれほど強い意味はないと考えられますが、それでも、特定の記述の有無について検討することには一定の意味があることは間違いありません。ただし、そうした「ある特定の記述の有無」という事柄は、小数事例であるという状況から推測されるように、回答者個々の個別的状況に結びついている可能性があります。たとえば回答者の年代がバラバラであった場合、「特定の記述の有無」はもしかすると年代の相違によるものかもしれないし、あるいは、回答者の職業や住んでいる地域や罹病歴といった個別性によるのかもしれません。
いずれにしても、聞きとりを行った対象者が数例から二桁にならない程度と少数の場合は、次のような点に注目することになるでしょう。
- 少数事例であっても、そこにどのような共通性がどの程度確認できるだろうか。
- そうした共通性に含まれない個別性にはどのような要素・内容があるだろうか。
*こうした点についてのより詳細な分析が可能であるかどうか、その際、どのような方法や手順が考えられるかについては、近々、詳細を掲載する予定です。
(6/12,2008追記)
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「関連性評定に基づく質的分析」の実際について
第二型式研究― 複数事例の統合について
葛西俊治, 2007-2008
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