- ケンブリッジ身体心理療法センター(Cambridge Body Psychotherapy Centre)(1/12,2010)
- イギリスには、身体心理療法(Body Psychotherapy)を実践・指導・研究している中心的な研究所・センターが2カ所あります。一つはロンドンのChiron Association for Body Psychotherapistsで、もう一つがケンブリッジにあるケンブリッジ身体心理療法センター CBPCです。長年、身体心理療法の中心だった前者のChiron Associationはスタッフが高齢になり活動全体が疲弊してきたことから、近々「閉鎖する…」ように聞いています。ケンブリッジのセンターは、Gill Westland女史が長年中心になって運営しているもので、1/12(2010)にようやく訪問することができました。
- センターはケンブリッジの中心から少し離れた所にあり、駅からタクシーで向かいました。すでに夕刻で暗くなるなか、2階建ての小さな建物がそれだと運転手に教えられました。小さな看板も出ていました。
ピンポン…と鳴らすと、小柄な中高齢の女性が出てきてドアを開けてくれました。Gill Westlandとは男性だと勝手に思い込んでいた私は後で少々恥ずかしい思いをするのですが(^_^; 物腰の優しい穏やかな女性でした。その日も私とのインタビュー後は別の所用があるとのことで、びっしりのスケジュールで活動しているようでしたが、建物の中にあるレッスンルームを丁寧に紹介してくれました。
大きな部屋が2-3室あり、ダンスセラピー的な動きを用いたセッションにも十分なくらいの広さで15-16畳もあるのでしょうか、低いソファと、マッサージ用のベッド(マッサージや理学療法などに用いる、昇降装置のついた治療用のもの)が一台置いてありました。穏やかな色調の部屋にクッションなどの柔らかいグッズが何気なく置いてありました。
これよりも狭く10畳程度でしょうか、カウンセリング室の趣のものも4-5室ありました。建物やセッション用の部屋や廊下、すべてにおいて穏やかな雰囲気と、来訪者を大事に守ってくれるような雰囲気がありました。D. Winnicottの言う「(人を大事に)抱えてくれる環境 holding environment」を自然に実現しているようなたたずまいでした。こういう雰囲気とセラピストとの関わりの中でセッションが行われるのだなあ…と、あらためてセラピーということが単に2者が出会うと言うことだけではなく、そのための場所として長年にわたり培われ,養生されてきていることを実感しました。
★続きです。
- イギリスの身体心理療法に私が初めて接したのは、数十年前のことになりますが、イギリスのDavid Boadela(Biosynthesis)が北海道・白老にやってきて、ワークショップを指導していたときでした。Alexander Lowenのバイオエナジェティックス(Bioenergetics)「生体エネルギー法」と訳される身体心理療法のワークショップでした。なお、『からだのスピリチュアリティ』(アレクサンダー・ローエン著、村本詔司・国永史子/訳、春秋社 2005)など、 Lowenの重要な著作を中心に5-6冊翻訳されています。(ちなみに村本先生はローエンの訳書に留まらず、人間性心理学および「臨床心理学における倫理」などの活動で知られています。)
さて。
白老でのワークショップを指導していたBoadela氏はバイオシンセシス(Biosynthesis)という新しい流れを作りだしたのですが、その基本にLowenのBioenergeticsがありました。ちみなに、イギリスの身体心理療法では、1) Boyesens and Southwell (Biodynamic Psychology), 2) Kurtz (Hakomi therapy), 3) Sills (Core Process Psychotherapy), 4) Boadella (Biosynthesis), 5) Reich (Character Analysis, Vegetotherapy), 6) Lowen (Bioenergetics), 7) Pierrakos (Core Energetics), 8) Rosenberg (Integrative Body Psychotherapy), 9) Rothschild (Somatic Trauma Therapy)などが取り入れられいますが、的確な翻訳書が5-6冊あることなどにより日本に馴染みがあるのは「6) Lowen」のバイオエナジェティックスBioenergeticsとなっています。
- Wilhelm Reichに端を発する身体心理療法 (Body Psychotherapy)ですが、ライヒの著作も技法も日本には十分に伝わらず、その他様々な事情から日本国内で「身体心理療法」といえば、主にAlexander Lowenによる「Bioenergetics 生体エネルギー法」とそこから派生してきたセラピーを指すといっていいでしょう。なお、ローエンは数年前に亡くなり、アメリカの専門心理学誌"the usa body psychotherapy journal"Vol.7, No.1, 2008は、ローエン及びバイオエナジェティックスについての特集号を組んでいます。
- 一時期、金沢にバイオエナジェティックスの拠点があり冊子を発行していましたが,数年で活動を休止しました。
- イギリスでは、身体心理療法はNHS(National Health Service:日本の厚労省)が認定しているセラピーの一つです。ケンブリッジ身体心理療法センターは、the U.K. Council for Psychotherapy (UKCP: イギリス心理療法評議会)が認定する組織となっていて、当該の資格取得ができるコース(週末を中心にして4-6年)を用意しています。
- Gill Westlandさん、そして、当日にセラピーの予約があるために時間まで待っていた2-3名のセラピストを交えて、イギリスの身体心理療法一般および個別のアプローチについて話を聞くことができました。ケンブリッジのセンターは、クライエントが個別にやってきてはそのまま、個室になっているセラピールームに入り、セラピストとのセッション後に帰って行く形式になっていました。そのため、スタッフが一緒にお茶する部屋はありますが、待合室的な感じのものはないみたいで、来談者のプライバシーが守られているようでした。
(小さなことですが、玄関で靴を脱いでいくのはイギリスではかなり珍しい形式です。「靴を脱ぐ」「それからセラピールームに向かう」といった一見、些細なことですが、当然のように実践されているので私は少し嬉しくなりました。ちなみに、「靴を脱ぐ」ことにより、立位から座位・横たわる姿勢など、姿勢の高低の変化と意識レベルの変容が予想されます。フロイドですら、クライエントに「寝椅子 カウチ」を用いて自由連想・夢分析を行っていましたし。)
身体心理療法そのものについての具体的な話はここでは省略しますが、センターの機能としては、プライベート・セッションを中心にして運営されており、そこに適宜、資格取得のための研修生が加わる教育機関としての側面もありました。セラピーの実践に関わる実質的な交流や情報交換がメインのため、研究者を養成しているわけでも研究を主体にしている組織でもありませんでした。(もちろん、研究テーマをもった研究者が関わることは行われています。)
*Gillさんは「the Journal Body, Movement and Dance in Psychotherapy」のco-editor(共同編集者)で、私も2010年から同研究誌の編集委員の一人となりました。
イギリスの心理療法は、ダンスムーブメント・サイコセラピーもそうですが、病院やNHS関係の施設や教育機関でセラピストして雇用されだけではなく、セラピストが個々にプライベート・セッションをもって生計を立てていることが普通に行われています。日本では、臨床心理士はおおむね病院などに雇用されるのと比べると、セラピーの腕前(こういう表現で良いのかどうかは不明ですが…)と情熱とで活動を展開し、例えばGillさんのように何らかの「センター」を開設して運営するといった展開がよくありました。
余談ですが、小さな町で一人でカウンセリング室をもち生計を立てているゲシュタルト・セラピストと知り合いになり話を聞く機会がありました。Oxfordは小さな街ですが、学生がたくさん住んでおり家賃がひどく高い地域の一つです。そういうところで「センター」を長年運営してきたGillさんの力量が見て取れました。一回50分で一万円以下程度のセラピー料金で「センター」なるものを経営的にどのように成立させるのか…ということです。
visiting researcherとして下記にて研究しています。
(C/O) Professor Helen Payne, 303 Meridian House,32 The Common, Hatfield, Herts AL10 0NZ, UK
School of Psychology, University of Hertfordshire, UK
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