葛西俊治「身体心理療法」2009-2010
〜イギリス通信〜


  1. オーセンティック・ムーブメント 週末ワークショップ参加 (1/21-24,2010)

    • Helen Payne教授は、年に1-2回、トルコを含む海外でのワークショップの他には、近郊のケンブリッジや、今回、週末に開催されたように,ケンブリッジとロンドンの中間くらいにあるレッチワースという田舎(Letchworth Garden Cityと名乗っています)の小さな施設でもワークショップを開催しています。
      University of Hertfordshireがあり私が住んでいるHatfieldからは列車で30分くらい、前後の移動時間を入れても1時間程度で着くので、今回はアパートから通うことにしました。"Letchworth Centre for Healty living"という小さな建物ですが、ありとあらゆる健康志向のイベント、文化的イベントを取り入れている施設で,その一室を使って、オーセンティック・ムーブメントのワークショップが開かれました。

      田舎の小さな施設で行われる4日間の小さなイベントなので、さすがに参加者も少ないのですが、内容は実に国際的で濃厚なものとなりました。オランダからセラピストの男女各一名、お茶の水大で医療人類学の博士号を取得したという韓国女性でロンドンのRoehampton大学でダンスセラピーの修士課程に属すサニーさん、爽やかにニューエイジ的な若い大柄な英国女性、オックスフォード近郊の街でゲシュタルト・セラピストとしてオフィスを構えている女性セラピスト…
      そして、言わずと知れた日本人高齢男性の私…。
    •   レッチワース・センター
      * 写真は素敵ですが,イギリス風に薄汚れていて古くてガタピシ…(^_^;V

      ★続きです。

    • 前回、ケンブリッジの古城で行われたオーセンティック・ムーブメントのワークショップは確か八名の参加でした。今回はそれよりも少ない六名…。こうしたイベントはハートフォードシア大学の学部が関わっていて、大学が収入するようになっているので、こんなに少ない参加者では割に合わないだろうなあ…と経営的な思いに囚われましたが、参加する側から見ると、六名+ヘレン先生…というのは、実に関係が 「濃い」 のです。主催大学側と参加者とでは、全く逆の意味になるのが少し可笑しいのですが、たった二名の違いがここまで大きく関係の濃さに影響する!。当たり前かもしれませんが、ずっしりとした手応えがありました。

      これまでヘレン先生によるオーセンティック・ムーブメントの体験を積んできた私は、このイベントをいれると合計で約90時間以上、オーセンティック・ムーブメントを行って来たことになります。先生の話によると、200時間程度でオーセンティック・ムーブメントの指導者というか、何とかという資格が得られるそうです。そういえば、トルコでは、二人の参加者が必要な時間数を経過して、ヘレン先生から「オーセンティック・ムーブメント」による「ダンスセラピスト」として認定されるという記念的なイベントがあったのを思い出しました。(資格要件の詳細は後で調べてみることにします)

      いずれにしても、今回の六名の参加者の中で「ダンスセラピー」「オーセンティック・ムーブメント」の二つの領域においてたっぷりと経験を積んでいるのが私だということが分かりました。ゲシュタルト・セラピストのハンシェさんは、身体的なアプローチは今回が初めてということでしたし。ふふふふふ。塵も積もれば山となる…。何事も経験で、つらい思いをしながら頑張ってきて良かったなあ…しみじみ思えたのでした。

    • さて。
      イギリス生活も8ヶ月ほども経過してイギリス語にもだいぶ慣れてきた…というのが,私にとっては実は一番大きな違いでした。すぐそばで自分の体験を語る参加者の声と言葉が、こらちの耳と身体にきちんと届いてきます。車座になって座っても、八名だと一人くらい場面からはずれていてもあんまり問題にならない感じですが、六名となるとそうはいかない。その分、集中度も関わりの濃さも一挙に増すことになります。…ああそうか、そうだったのか…というような気づきが自然に起こってくるのです。人と人との関わりの物理学…。人数と、実際の距離と、声の近さと、体験の近さ…。いろいろとあらためて気がつくことはあるものですね…しみじみ。

      私の真実の姿に近い部分は、暗黒舞踏…という、身心ともにあまりにも暗くて深くてどうしようもない領域だと、イギリス人の間で生活する中で気がついていました。普通の場面ではもちろんそうですが、セラピー的な場面でも,私くらいの暗がりをもって生きている人はあまりいないのでした。イギリスに来て,一番よく分かったことが、このことでした。暗黒舞踏の世界にはまりきって20数年も踊り続けられるのは「よほどのことがない限り無理」だということです。

      トルコでのオーセンティック・ムーブメントのワークショップでは、そのあたりがまだ見えていなかったのでした。そのため、私の真実の身心感覚に近いところで「オーセンティックに」(純粋に・真実に近く・真っ正直に…) 動きのままに任せたのですが、セラピストの人達でさえ後ずさりする…ということが分かったのでした。ほとんど「狂気」といってよいほどのモノが私の身心に食い込んでいることに気がつけたこと…。これがイギリスに来て一番はっきりとしたことでした。

      いろいろな展開がありましたが、ワークショップの構成そのものは、ヘレン先生方式での「オーセンティック・ムーブメント」アプローチなので、基本的な内容はこれまでにも何度か書いてきました。ただし、今回のヘレン先生は、自分自身やムーバーの体験を「ジャーナル journal」(個人的なメモ書き…とくらいの意味です)に書くだけではなく、「粘土も使えたら使ってみてください」。何でも、最近、粘土によるアートセラピーのアプローチ(指導している院生がそうした研究をしていたようです)を気に入ったためとのことでした。

      私がムーバーで動いた際、ウィットネスだった若いイギリス女性のダイアナさんは、四つん這いになっている私の姿勢を小さな粘土の固まりで作ってくれました。作品の上手い下手ではなく、何とも言えない味が出ているものでした。(今、手元にあります(^_^;)

      背中を丸めて四つん這いに固まっていた私…。

      まあ…まだ人間になっていない感じの存在…。自分自身でそうだと思い当たるところが多々あります(^_^;。

    • 他の参加者の動きの中で非常に印象的だったのは、オランダからやってきたボルット氏。長身でかつてはダンサーとして各国を回っていたという身体感覚の人ですが、オーセンティック・ムーブメントの「ムーバー」となったとき、ダンサー的な技術やあり方をすべて捨てていた!というところでした。
      普通は、そうした経験や経歴は身体そのものにも刻印されているし、動きの中にもどうしても出てきてしまうものですが、そうしたものをスッと切り離して「純粋に・真実に近く・真っ正直に」オーセンティックに動こうとしていたのです。「身体についての専門家だな…」と思いました。普通は簡単にできることではないからです。いつもにこやかにしている紳士なのですが、休憩時間にこの点について話をもっていくと急に真顔になって静かに語り出しました。

      普通は、セッション以外で出た話は、セッションの中で持ち出して共有することになっていましたが、この話については私は誰にも言う気がせず、彼もそうだったようで、二人だけでの話となりました。オーセンティック・ムーブメントの体験を共有することは,参加者同士の関係が全体的に深まるために必要な措置ですが、彼との間で出てきた話は長年踊りの世界で苦悩してきた彼と私がじかに共有するしかない性質のものでした。
      「…今の私が踊ると、かつてのようにコンテンポラリーやモダンダンスとして踊ることになるけれども、そういうこととして踊っていない…」。この言葉の意味は痛い程分かります。形や動きとして踊るのではないのだ…ということを、静かに共有できたひとときでした。

      ロッテルダムに住んでいることにふと気がついたので、「二月に行きますが」というと、そのときには彼の方が丁度海外に出かけていて不在とのことでした。少し残念でした。

    • 大柄のダイアナと、小柄な韓国人のサニーとが組んでほぐれずの大立ち回りをする、「複数ムーバー」のセッションがありました。暴れ馬を乗りこなそうとしている小柄なジョッキー…とでも言うと近いかも知れません。その他、いろいろと印象的なことがありましたが、まだ,私自身の中で十分に受け取っていない部分があるため、しばらくの間は具体的には書かないでおくことにします。お許し下さい。

      *サニーさんとは、後で自分の修論を「シャーマニズム・仏教的動作・舞踏・ダンスセラピー」という関係から探る…ということで数回、研究について相談を受けています。

      *ゲシュタルト・セラピストのハンシェさんは、私の舞踏を見た後あたりから舞踏という身体的なアプローチに気がつき、現在、Oxfordの舞踏グループのレッスンに通うようになりました。元々、身体的な要素を濃厚に取り入れたアプローチがゲシュタルト・セラピーだったので、自分自身のセラピー体験と舞踏の何かが深く結びついたようでした。




visiting researcherとして下記にて研究しています。

(C/O) Professor Helen Payne,
303 Meridian House,32 The Common, Hatfield,
Herts AL10 0NZ, UK

School of Psychology,
University of Hertfordshire, UK


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