「日本ダンスセラピー協会第
9回大会・抄録集」から
ワークショップ 「ボディラーニングと舞踏ダンスメソド」
日本ダンス・セラピー協会第9回大会 秋田県たざわこ芸術村 7/28-
29,2000
葛西俊治 (北海道工業大学教養部)*1
竹内実花 (竹内実花BUTOH研究所主宰・「偶成天」所属舞踏家)
これまでの研究・実践活動に基づいて明ら
かになってきたことは、リラクセイションや動き・踊りにおいては、「体験を体験する」こと―すなわち、「身体がみずからを験(ため)し、験(しら)べるこ
と」の重要性であった。このことは当然すぎるほどであるが、いざ、これを具体的に実践する段に至ると、様々な問題に遭遇することになる。例えば、「からだ
を対象化・道具化し、それを制御する」という心身のあり方をどう超えるのか…などの問題である。演劇やモダンダンスなどの領域においてしばしば見受けられ
る「心身の分断」などをどのようにして回復していくのか…といったテーマにも通じるものである。
A.ボディラーニング
ボディラーニングとは「心の、体による学び
psycho-somatic
learning」を基本とするものであり、主に「からだと心のはざま」「意識と無意識のはざま」において、その間を揺れ動く体験を験(しら)べていくも
のである。
心身の「考現学」― 現状の把握 以下の簡単なレッスンによっ
て、心身の現状を験(しら)べていく。
1)腕の揺れの誘導
2)チックとジャーク
3)振動と痙攣のレッスン
なお、このようなレッスンは、結果的に感情の「発散」や自律
性解放などとつながりうるが、そのことを主目的とするものではない。
B.舞踏ダンスメソド
「暗黒舞踏」と呼ばれるものには、一見、「反」社会的と感じら
れる要素が含まれ得るが、それは単なる「反 anti」にとどまらず、それによって心身の現状を乗りこえようとする「心身の脱社会化
de-socialization」の機縁を含んでいることを見落とすべきではない。一般に、社会的規範の中に取り込まれてしまった私という「からだ」
を、再び自らのものへと回復しようという試みを、セラピーとしての舞踏ダンスと呼んでいる。
心身の「考古学」から「脱社会化身体」へ向かう実践として
心身の現状を「揺れ、振動、痙攣…」の次元において験(し
ら)べたので、次には、その機縁を験(しら)べ、さらには、そのことを「生きる」という次元へと参入したい。その際には、これまでの生き様という「過去」
の体験、さらには「いにしえ」の習いの沈殿などを験(しら)べるという意味で、「心身の考古学」と呼ぶべき過程がふくまれている。
具体的には、精神と身体にしみ込んでいる社会化された動き・反
応、また、こころの引っかかりや居心地の悪さをもしっかりとそこで生きてみることによって、それが悪いとか不必要ということではなく、そうでしかいられな
かった自分を改めて体験し見定めることによって一歩一歩歩んでいくこと―。
そうすることによって、心身の境界を超え、はぐれた心と体の
復権を目指し、さらには心身の極み・深淵までの歩みを目的とする。
*究極的には、深い意味での「トランス」(あるいは超個…)を
射程とするものであるが、しかし、このような過程は、「万人に」「常に」必要であるわけでも適切であるわけでもない。その人の心身の状況、時期、機縁など
によって、もっとも妥当な段階を見極めその段階での体験を深めることが肝要である。
葛西俊治
「腕のぶら下げから社会体操へ」人間性心理学研究,
1990, No.8, 21-26
「身体の脱社会化と舞踏」北海道工業大学研究紀要,
1991,No.19,217-224
「脱社会化身体について」北海道工業大学研究紀要,
1992,No.20,265-273
"A Butoh Dance Method for
Psychosomatic Exploration", 1999, No.27,309-316など
竹内実花
1999 舞踏公演 "U-NE-RI",
May15-16,Seattle/ 舞踏デモ 米ワシントン州女性刑務所,May12/ "U-NE-RI", Aug.19,
Szszecin, Poland; Aug.20,26, Berlin,Germany/
他国内公演/ 精神科ディケアにて「リラクセイション」「ダンスセラピー」プログラム指導中
*葛西・竹内は、35th American Dance
Therapy Association (Oct.26-29,2000. Seattle)において "Mind-body learning
by Butoh dance method"の題にてワーク指導予定。
*葛西俊治は2004年4月から札幌学院大学
人文学部臨床心理学科に所属。
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