日本ダンスセラピー協会 JADTAニュースレターから引用

JADTA News No.47,p.15-16, 2000
 

Butoh Dance Methodと第35回アメリカダンスセラピー学会
 
葛西俊治
 
初参加…、ならば、ものはついでとワークショップセミナー発表を申し込んだ。申し込んで驚いたことは「発表者」に対して「発表 料」とでもいうべき経費が請求されたことだった。日本の、私が入っている学会でこういうことはなかったので驚き、それとは別に大
会参加費も払うと分かり、後でさらに驚きながらもそそくさと手続きを済ませて来る日を待つことにしたのだった。(もしかすると 発表者は参加費免除…とかの特典があったのかもしれないのだが確認はしていない)。
 
シアトル中心街の高級ホテルが会場、そこにたとり着いたのが初日の夕方。オープニングのパーティ会場は女性達の華やかな会話や 矯声ですでににぎわっていた。私は、その後の舞踏公演活動[1]のためにスキンへッドにしていたのだが、白人女性達の間には東洋系ひげ面剃髪中年男性の居 場所はあまりなく、時差の睡眠不足でイスにもたれていたとき、気配と感覚を漂わせている素敵な女性のいることに気がついた。それがユング派の分析家の、あ のJoan Chodorow女史だということを後で知ったのだが、さすがにセラピスト…と感じた一瞬ではあった。
 
日本からは、私と共同指導をすることになっている舞踏家・竹内実花さん、たまたま同じ札幌からの参加となった札幌にある北海道 大学医療技術短期大学部助手の渡辺明日香さん、そして国際パネルディスカッションに出席する崎山ゆかりさん…。それぞれに異なるセミナー(それぞれ2−3 時間のセミナーが、同時に10種類前後開催される}にエントリーしていたので、お互いに異なる感想をもつことになったと思う。残念なことに、私が参加でき たワークショップは「はずれ…」だったようだ。
 
いずれも、少し体験的なことを「してみましよう」となり、続く体験内容についての議論が長々と続いていて、「セミナー」という 内容のものにとどまっていた。そのために、聞き取りに関しての英語力の問題が露呈した面もあったと思うが、私の個人的感想としてはボディワークによって参 加者の心身を実際に変容させていくという構成をとる程度にまで、ボディワークそのものに習熟していないのではないのか…という疑問が生じてきたことも事実 である。
 
様々なボディワークを組み立てて心身の深みへと分け入っていく…という私のイメージからはほど遠い構成だった。申し込み当初か ら英語力の問題がちらついていたので、「体験型」と提示されたプログラムを選択したはずなのにという煮え切らない思いと同時に、逆に、自分たちがどれほど ボディーワークの深さに期待し賭けてきたのか…という指向性が浮き彫りになったといえる。そういう体験の最中、私と舞踏家・竹内実花さんによるワーク ショップが開かれた。
 
海外での英語でのワークはそれなりにこなしてきたのだが、さすがにダンスセラピーの本拠地とあって、正確を期すために地元シア トルで長年活動している舞踊家のサイコさん(公演活動とともに女子刑務所でダンスセラピー活動をしているPat Graney Dance Company[2]所属)に通訳をお願いしていた。私が説明をして、竹内実花が動作やあり方の手本を示す…という役割分担を行い、二時間のワークが始 まった。参加申込者は30名近く、そのうち実参加者は25名前後となり少し手狭な会場での指導となった。
 
前半はリラクセイションの導入、後半がムーブメントに関する内容というもので、指導する側としては特に違和感もなく進んでいた のだが、一つだけ印象的なことがあった。それは、身体の振動や痙攣、チックやジャークという非標準的動きを「真似てみる」というエクササイズのときに、狼 狽した参加者がいたことだった。社会的に禁止ないしは抑制されている類の動きに明確に否定的な反応を示すというのは、ダンスセラピーを行う・志す者として は、あまり考えられないことだったからである。というのは、セラピーの参加者が本人のなんらかの「限界」に達しようとするとき「非標準的動き・反応」が発 動してしまうことが多いからである。楽しく・明るく・元気に・みんなで…という幸せな領域だけではないはずのダンスセラピーについてアメリカの地でも何ら かの社会的制止がかかっているのかもしれない…と感じた一瞬だった。英語になりづらい私の日本語解説を丁寧に通訳してくれたサイコさんに、ワーク後、「こ のワークをプリズンで行ったらどんな反応になるんでしようね?!」と刺激的な質問をされてしまったのだが、今もこのことが強く印象に残っている…。社会的 に否定される犯罪ということを行ってしまった人たちにとって、非標準的な動作・反応ということの意味…。彼女のボスのPat Graneyがダンス公演や刑務所での活動を認められて賞をとったこと、その活動内容がテレビ番組になったこと、そして、そのPatさんが超多忙の中、 30分の時間を作って会いに来てくれたこと、日本の刑務所でそのプログラムを展開する可能性についての話し合い…。特にダンスセラピー学会に属して活動し ているわけでもないPatさんの精力的な活動とエネルギーに接して、「ダンスセラピー」ということについてのアメリカでの幅と奥行きについて私はあらため て刺激を受けることとなった。
 
[1]バンクーバー国際ダンスフェステイバル、シアトル国際舞踏フェスティバル、アッシユビル現代舞踊シアターの三ヵ所で合計 5回の舞踏デモ、合計6回のワークショップ指導を行った。
[2] Pat Graney Company,P.O.Box 20009,Seattle WA98102-1009 USA
 
◆かさいとしはる 北海道工業大学教養部
 
*2004年4月から札幌学院大学人文学部臨床心理学科所属。
 

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